東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)39号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1 成立に争いのない甲第二号証及び甲第三号証によれば、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果は次のとおりであることが認められる。
(一) 本願発明は、それぞれ物体の同一部分からの光束を含み、かつ、異なつた光学的開口を通して視差を有する異なつた経路に従つた該物体からの光束のそれぞれの照度分布の位置関係を検出するようにした距離検出装置に関するもの(本願発明の出願公告公報第二欄第五行ないし第一〇行)であつて、従来この種の装置は、いずれも二光束の照度分布についての光電変換信号を得て、その比較処理によつてその相対位置関係を検出するものであり、その内の(1)振動スリツト板と光電変換素子との組合わせから成る走査手段によつて照度分布の走査を行う構成のものは、光電変換素子とその光電変換信号を処理するための電気回路手段との接続及び構成が簡単になる反面、スリツト板を振動させるための機械的構成が複雑かつ大型になる等の欠点があり、また、(2)複数個の光電変換帯条を設けることにより、照度分布の各微細部分を検出して照度分布についての光電変換信号を得る構成のものは、機械的構成が簡単になる反面、各光電変換帯条の光電変換信号を並列処理するための電気回路手段の回路構成が複雑になり、その結果、相対位置関係を精度よく検出することは困難である等の欠点があつた(同欄第一一行ないし第四欄第一四行)との知見に基づき、右欠点を除去するために、従来の機械的走査による機械的構成上の不利あるいは多数個の光電変換信号を並列処理することによる電気的構成上の不利を一掃し、多数個の光電変換素子を使用するにもかかわらずその直列的処理が可能で、したがつて、光電変換素子の数を大幅に増大して光束の照度分布の微細な部分を正確に捉えて該光束の照度分布についてのより正確な光電変換信号を得ることができ、また、画像のコントラスト等の影響を受けることが非常に少なく、かつ、外乱雑音等の照度分布の位置関係についての情報と無関係の成分の混入を防止できるため、照度分布の位置関係の検出をより正確に行い得る距離検出用装置を提供することを目的として(同欄第一五行ないし第三六行)、
(二) その特許請求の範囲(前記本願発明の要旨)に記載のとおりの構成を採用し、
(三) 右構成によつて、
(1) 従来の機械的走査による機械的構成上の不利、あるいは光電変換信号を並列処理することによる電気的構成上の不利が一掃されるとともに、多数個の光電変換素子を使用するにもかかわらずその直列的処理が可能になるため、光電変換素子の数を大幅に増大して光束の照度分布の微細な部分を正確に捉えて該光束の照度分布についてのより正確な光電変換信号が得られるという非常に有益な利点が得られ、
(2) 画像のコントラストやパターンに影響されることが少なく、しかも、外乱雑音等の照度分布の位置関係の情報と無関係な成分の混入を防止することができるため、照度分布の位置関係の検出をより正確に行い、常に高精度の検出が可能になる等の利点も得られる、という作用効果を奏する(第九欄第三七行ないし第一〇欄第二七行)。
2 いわゆる基線測距方式に基礎をおき、両方の光像をそれぞれ機械的に繰り返して掃引を行つて光電変換素子に受け、それぞれの照度分布を示す時系列化信号を得、該時系列化信号間の位相差を検出することにより距離を検知することは、第一引用例ないし第三引用例に示されるように、本件出願当時周知技術であることは、当事者間に争いがない。
原告は、審決が、本願発明と右周知技術との相違点<1>、すなわち、本願発明は、時系列化信号を得る手段として、右周知技術における機械的掃引に代えて、光像を複数個の光電変換素子の配列に受け、受容したそれぞれの照度分布についての光電変換信号を形成するように構成された光電変換素子群を用い、電子的読み出し回路により該光電変換素子により同じ時期に受容せられた前記それぞれの照度分布についての各光電変換素子の光電変換信号をこれら光電変換素子の配列に沿つて順次読み出す構成を採用した点について判断するに当たり、第四引用例の記載内容を誤認し、かつ、本願発明の奏する顕著な作用効果を看過した結果、(一)第四引用例の〔10〕項中の「電気的走査切替え」との記載が光電変換素子の配列とその出力の電気的走査切替えによるものを含むことは明白であつて、(二)本願発明における光電変換素子群と電子的読み出し回路との間に格別の差異があるものとすることはできない、と誤つて認定、判断した旨主張する。
そこで、第四引用例の記載内容について検討すると、成立に争いのない甲第八号証によれば、第四引用例は、織間勇「図説・写真のためのエレクトロニクス その4 電気で距離を測る」と題する解説であつて、その〔10〕項には、「実際のカメラでオートフオーカスを採用するとどうなるだろう。まず撮影レンズとは別に、ピント合わせ用レンズがいる。つまり撮影レンズの光路をじやますると構造が複雑になるからである。フアインダーの中に距離計の二重像合致部分のように、ピントを合わせたい部分を極限して指示する部分がある。これがないと、カメラはどこにピントを合わせたらよいのかわからない。ピント合わせ用レンズの焦点面には受光器がおかれている。この受光器は発信器からの制御によつて、前後左右の機械的振動あるいは電気的走査切替えが行なわれているだろう。受光部分がレンズに対して前後二カ所に付いている可能性もある。レンズを前に動かすか、うしろへ下げるかを判断する条件を提出するためである。受光器より得られた情報は、周波数最大か、二点間の照度差最大かの判断のほか、レンズを前に動かすか、うしろに動かすかの判定を行なつたのち、この情報によつて、カメラレンズの進退を駆動するモーターに伝えられてフイードバツクループが成立する。」(第五一頁右欄第九行ないし第五二頁右欄第四行)と記載され、その図説として別紙図面(二)図〔10〕が示されていることが認められる。
第四引用例の右記載内容について、さらに個別的に検討すると、前掲甲第八号証によれば、右〔10〕項中の「前後左右の機械的振動」との点については、〔8〕項中に、「電気光学的な方法を使つて自動的にピントを合わせる場合(中略)ピントの合否を検知するために二系統の方法が考えられる。一つは高い周波数を含んだ画面のピントが合つている、という仮説にもとづいて検知する方法である。フイルム画面相当の位置に細穴またはスリツトを置いて振動させ、その出力波形を見る、レンズを前後させもつとも高い周波数が現われた位置で止める、というやり方である。」(第五一頁左欄第二九行ないし右欄第二行)との記載があり、また、〔9〕項中に、「もう一つの考え方として、周波数が高くなるととなり合つた二点間の照度差も最大となるだろう、という考え方である。この考え方によれば、近接した二点の明るさを測る素子を置き、レンズに対して前後に動かしてみる。二点間の照度差が最大となる点をみつけ、レンズを移動するという方法である。」(同頁右欄第三行ないし第八行)との記載があることが認められるから、右〔10〕項中の「前後左右の機械的振動」における前後の機械的振動の態様は、〔9〕項に記載された二点間の照度差の最高値を検出することによるピント合わせの方法を述べたものであり、また、左右の機械的振動の態様は、〔8〕項に記載された最高の周波数を検出することによるピント合わせの方法を述べたものと理解することができる。
そして、前後の機械的振動は右二点間の照度差の最高値を検出することによるピント合わせの方法を実施するための手段に該当し、また、左右の機械的振動は右最高の周波数を検出することによるピント合わせの方法を実施するための手段に該当するものであることは、当事者間に争いがない。
次に、〔10〕項中の「電気的走査切替え」の点については、前述の機械的振動と択一的に並記されているだけで、その具体的な態様についての記載は存しない。〔10〕項には、右記載に続いて前記認定のとおり、「受光部分がレンズに対して前後二カ所に付いている可能性もある。レンズを前に動かすか、うしろへ下げるかを判断する条件を提出するためである。」と記載されているが、この記載に基づく技術内容は、図〔10〕の受光器に設けられた段部は、右記載におけるレンズに対して前後二箇所についている受光部分であり、また、右前後二箇所についている受光部分は右記載におけるレンズを前に動かすか、後ろへ下げるかを判断する条件を提出するためであると理解できるにすぎない。また、右記載に続く「受光器より得られた情報は、周波数最大か、二点間の照度差最大かの判断のほか、レンズを前に動かすか、うしろに動かすかの判定を行なつたのち、この情報によつて、カメラレンズの進退を駆動するモーターに伝えられ」との記載に基づく技術内容も、右受光器は、前後二箇所についている受光部分によつて、レンズを前に動かすか、後ろに動かすかの操作を行つていると同時に、周波数最大か、二点間の照度差最大かの判定をも行つているとの結論が示されているだけで、右受光部分が具体的にどのような構成になつているのか、発信器の出力はどのようなものであるのかがそれぞれ不明であるだけでなく、右発信器のどのような出力が右受光部分のどのような部分にどのように作用し、その結果、右受光部分からどのような電気信号が出力されるかについても全く不明といわざるを得ない。
もつとも、前掲甲第八号証によれば、第四引用例の〔6〕〔7〕項には、「そこで光電変換器をフイルム画面に置いて走査を行ない、レンズを前後させてみる。ここでもつともこまかい変化があらわれる点、つまり高い周波数が含まれている位置がピントの合つた点と考えることができる。ピントの合つた位置と、はずれた位置とでは、高い周波数の含有率が極端にちがうことがみとめられる。テレビの送受信の方式は画面を線走査するので、ピントの合否を電気的に感知しやすいといわれる。」(第五一頁左欄第二一行ないし第二八行)と記載されていることが認められ、右記載中には、走査及びテレビジヨンの送受信方式における線走査という用語が用いられ、その記載内容から見て、前記〔10〕項の説明及び図〔10〕の図示内容に関係があると認められるので、これと電気的走査切替えとの関係について検討すると、走査については、「光電変換器をフイルム画面に置いて走査を行」うと記載しているだけで、それ以外に何らの記載も存しないから、走査の具体的な態様は全く不明といわざるを得ず、テレビジヨンの送受信方式における線走査については、「テレビの送受信の方式は画面を線走査するので、ピントの合否を電気的に感知しやすいといわれる。」との記載が存するだけであるから、右記載から理解できることは、周波数最大を検出するピント合わせの手段に右テレビジヨンの送受信方式における線走査の原理を用いればピントの合否を電気的に感知しやすくなるということにすぎず、しかも、その線走査のための具体的態様は明らかであるといえないものであつて、〔6〕〔7〕項の記載内容を参酌しても、〔10〕項中の「電気的走査切替え」の具体的態様は不明というほかない。そして、前掲甲第八号証によれば、第四引用例の全記載事項及び図面を検討しても、ほかにこれを明らかにするに足りるだけの記載も示唆も見いだすことができない。
そうであれば、第四引用例には、概念的に、距離の検出における照度分布に応じた時系列化信号を得る手段として機械的掃引のほか電気的走査切替えを用いることができること、及び走査、特に電気的走査ということができるテレビジヨンの送受信方式における線走査についての記載が存するけれども、その記載内容から直ちに電気的走査切替えの中に、光電変換素子の配列とその出力の電気的走査切替えによるものを含んでいることが明らかであるとは到底いうことができない。
したがつて、第四引用例の〔10〕項の記載が光電変換素子の配列とその出力の電気的走査切替えによるものを含むことは明白であるとした審決の認定は誤りというべきである。
審決は、前記認定の根拠として、審決の理由の要点摘示のとおり、第四引用例の記載内容とテレビジヨンの送受信方式に関する周知技術を引用して前記〔10〕項の記載部分から光電変換素子の配列とその出力の電気的走査切替えの構成が理解できる、としている。
しかしながら、審決が摘示する第四引用例の記載内容が〔10〕項中の「電気的走査切替え」の具体的な態様を明らかにするものでなく、その技術手段ないし構成は不明というほかないことは既に検討したとおりであるから、審決の右説示は第四引用例の記載内容に基づき「電気的走査切替え」が線走査に対応する照度分布に応じた電気信号を得るものであるとする点において誤つている。また、テレビジヨンの技術分野において、本件出願当時、光電変換素子(光電管)の配列とその出力の電気的走査切替えの構成が周知であつたとしても、本願発明や第四引用例記載の技術はカメラ等のピント合わせ(自動距離検出)の技術分野に属するものであつて、テレビジヨンとはその技術分野を異にし、技術思想的に共通の要素を持つものとは認め難いから、本願発明の属する技術分野の当業者にとつて、右構成が周知である、あるいは第四引用例の記載から右構成を理解できるとはいえない。
したがつて、第四引用例の記載内容及びテレビジヨンの送受信方式に関する周知技術を引用して、第四引用例の〔10〕項の記載部分から光電変換素子の配列とその出力の電気的走査切替えの構成が理解できるとした審決の認定も誤りというべきである。
右の点に関し、被告は、第四引用例の〔6〕〔7〕項中のテレビジヨンに関する記載は、周波数最大を見るには線走査による信号を用いることを説明し、これがテレビジヨンに限らず、カメラを含めた画面におけるピントの合否を知る手段に適応できることを説明したものである旨主張する。
しかしながら、テレビジヨンの送受信方式における画面の線走査は、通常電子ビーム走査によつて行つていることは技術上自明であり、その線走査によつて照度分布信号が得られるにしても、第四引用例に示されたカメラ等の画面のピント合否検出手段における走査の態様がテレビジヨンの線走査と同じ原理であるとの記載はなく、その走査の態様が不明であることは前述のとおりであるから、第四引用例の〔6〕〔7〕項のテレビジヨンに関する記載に基づいて、テレビジヨンの送受信方式における線走査の技術手段をカメラ等の画面のピント合否検出手段に適応できるものと理解されるとはいえない。
なお、成立に争いのない甲第九号証によれば、右刊行(昭和一五年)当時の初期のテレビジヨンの送受信方式には、多数の光電管を配列させ、それらの出力をスイツチで切り替えることによつて目的物の走査を行つているものも存したことが認められるが、その後三十年余を経過した第四引用例の刊行(昭和四六年)当時は、テレビジヨンの走査といえば特に断り書きをしない限り電子ビームによる走査を意味することは技術上自明であるから、第四引用例にテレビジヨンの線走査に関する記載があつても、その記載から電子ビーム走査を行つていないカメラを含めた画面のピントの合否を知る手段にこれを適応できるとはいえない。
したがつて、被告の前記主張は理由がない。
また、被告は、第四引用例の図〔10〕は受光器自体の構造を具体的に図示するものではないから、右図示から受光器は前後に位置がずれた二個の光電変換器であると断定することはできない旨主張する。
しかしながら、前掲甲第八号証によれば、第四引用例の図〔10〕項中には「受光部分がレンズに対して前後二カ所に付いている可能性もある。」(第五二頁左欄第六行、第七行)と記載されていることが認められ、この記載を参照して図〔10〕を見れば、図〔10〕の受光器に示されている前後方向の段部は、前後に位置のずれた二つの受光部分、すなわち光電変換器を示すものと理解できるから、被告の右主張は理由がない。
さらに、被告は、機械的走査に対して光電変換素子の配列とその出力の電気的走査切替えがテレビジヨンの技術分野における均等手段であると主張し、甲第九号証及び乙第二ないし第五号証の記載事項を引用して第四引用例の〔10〕項における電気的走査切替えには線走査に対する照度分布の信号を光電変換素子の配列とその出力の電気的走査切替えとによつて得ることを含むことが明らかである旨主張する。
初期のテレビジヨンの送受信方式については、前掲甲第九号証及び成立に争いのない乙第二号証によれば、多数の光電管を配列させ、それらの出力をスイツチによつて切り替え、もつて目的物の走査を行つている構成のもの、成立に争いのない乙第三ないし第五号証によれば、多数の光電変換素子(電光変換素子、光電素子、フオトトランジスタ)を配列させ、それらの出力を走査切り替え、もつて目的物の走査を行つている構成のものが存したことが認められるが、右認定事実によれば、テレビジヨンの技術分野における当業者に右認定の構成のものが電子ビーム走査の代替え手段であると認識されていたといえるだけであつて、そのような認識が技術分野を異にするカメラを含む画面のピント合わせの技術分野においても技術常識的な手段であると認識されているものとは到底認めることができないから、このテレビジヨンに関する技術から第四引用例における電気的走査切替えの中に線走査に対応する照度分布の信号を光電変換素子の配列とその出力の電気的走査切替えによつて得ることが含まれているとはいえない。
3 前記2説示のとおり、本願発明と第一引用例ないし第三引用例に示された周知技術との相違点<2>について判断するに当たり、第四引用例の〔10〕項中の「電気的走査切替え」との記載が光電変換素子の配列とその出力の電気的走査切替えを含むことは明白であるとした審決の認定は誤りでありしたがつて、この誤つた認定を前提として、本願発明における光電変換素子群と電子的読み出し回路との間に格別の差異があるものとすることはできないとした審決の判断は原告のその余の主張について判断するまでもなく誤りというべきである。
被告は、前記相違点<1>については、照度分布が示す時系列化信号を得る手段が本願発明は電子的掃引であるのに対して、周知技術は機械的掃引であること、本願発明は光電変換素子群の配列が二つであるのに対して周知技術はスリツトと光電変換素子が二組であることの二点に分けて考えることができ、いずれの点も当業者が容易に想到できる程度のことである旨主張する。
しかしながら、被告の主張する電子的掃引とは、そこに含まれる技術的手段の対象範囲が明白でないが、機械的掃引以外の電子的手段を含むすべての手段を含むと見れば、電気的走査切替えも電子的掃引ということができるが、この場合における電子的掃引には種々雑多の技術手段が相当含まれることになるから、単に基線測距方式においては電子的掃引の採用を妨げる事情も見当たらないという理由だけで、第四引用例における「電気的走査切替え」という漠然とした技術手段に基づいて本願発明における複数の光電変換素子の配列と電子的走査読み出し回路による線走査とによつて照度分布を示す時系列化信号を得る技術手段が類推できるものとは到底考えられない。
また、右の点に関連して、被告は、本願発明と第四引用例記載のものとは検出の原理を異にしているが、本願発明の構成には光電変換素子の配列と電子的走査読み出し回路以外に特段の構成上の特徴を見いだし得ないから、検出の原理の相違をもつて第四引用例における電子的掃引の採用には困難性がない旨主張するが、一般に検出の原理を異にするものであれば、まず検出の原理の違いに基づく要求の違い、機能の違い等が類推可能なものであるか否かが判断されなければならないところ、その点が類推可能であるとする根拠は示されていないから、検出の原理が相違するにもかかわらず第四引用例における電子的掃引の採用には困難性がないとする根拠は不明というほかない。
さらに、基線測距方式が二つの線走査を必要とすることは被告主張のとおりであるが、被告の主張は、周知技術における二組のスリツトと光電変換素子を本願発明のように二つの光電変換素子群に置き換えることがなぜ容易であるかの根拠に欠けるから、基線測距方式が二つの線走査信号を必要とすることを理由として右置き換えが容易であると認めることはできない。
したがつて、被告の前記主張は理由がない。
4 以上のとおり、審決は、本願発明と第一引用例ないし第三引用例に示された周知技術との相違点<1>について判断するに当たり、第四引用例記載の技術内容を誤認した結果、本願発明は第一引用例ないし第四引用例記載のものに基づいて当業者が容易に発明をすることができるものと誤つて判断したものであつて違法であるから、取消しを免れない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容する。
〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
それぞれ物体の同一部分からの光束を含み、かつ、異なつた光学的開口を通して視差を有する異なつた経路に従つた該物体からの光束のそれぞれの照度分布の位置関係を検出する距離検出用装置において、
前記照度分布をそれぞれ複数個の光電変換素子の配列に受け、該受容したそれぞれの照度分布についての光電変換信号を形成するように構成された光電変換素子群と、
該光電変換素子群により同じ時期に受容せられた前記それぞれの照度分布についての各光電変換素子の光電変換信号をこれら光電変換素子の配列に沿つて順次読み出すことによりそれぞれの照度分布を示す時系列化信号を得、
かつこの読み出しを繰り返し行うための電子的読み出し回路と、
該時系列化信号間の位相差の大きさと方向を検出するための位相検出回路と、
を備えたことを特徴とする距離検出用装置(別紙図面(一)参照)。
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
<省略>
<省略>
(以下省略)